キャリアパス/各種事例集
埼玉医科大学国際医療センター
熊﨑 祐
現在の放射線治療品質管理体制（病院内組織図）
埼玉医科大学国際医療センターでは、年間1300〜1500人の患者に対して放射線治療を実施している。放射線治療専属スタッフは医師10名、医学物理士４名、診療放射線技師17名、看護師7名である。放射線治療の品質向上と患者安全を図ることを目的として放射線治療品質管理室が設置されており、その室員が先導的に放射線治療の品質管理を行っている。図1に当センターの放射線治療に関連する組織の関係図を示す。クオリティマネジメントセンターとは病院全体の医療の質を管理、統括する部署である。
放射線治療品質管理室の室長の職種・医学物理士の職位・その他の構成員の職種と枠割
放射線治療品質管理室は放射線治療専門医師、医学物理士、放射線治療専門診療放射線技師で構成されている。当センターの放射線治療品質管理室要領には、“室長は放射線治療品質管理士の資格を有する医学物理士のうちから診療部長の推薦に基づき病院長が指名する”と明記されており、現在は准教授である医学物理士が室長として放射線治療品質管理室の業務を掌理している。医学物理士は放射線腫瘍科の医局員でもあり大学教員として雇用されている。室員は放射線治療に関わる機器の精度管理、放射線治療技術に関わる精度管理、放射線治療に関わる安全管理、放射線治療品質管理に関わる教育・研修、放射線治療に関わる機器の保守管理、放射線治療品質管理委員会の運営、その他放射線治療に係る事項に対する業務を各職種の観点から行う。放射線治療品質管理委員会では、委員会の構成員であるがんセンター長、医療安全対策室長、事務部長、看護師長らと病院組織の取り組みとしての放射線治療品質管理に関して議論し上申する役割もある。
上記体制に至る沿革
2007年のセンター開院当初には放射線治療品質管理室は存在しなかったため、病院組織としての放射線治療品質管理体制は確立しておらず医学物理士の個人的活動などにより放射線治療の品質を保ってきた。しかし、個人の活動には限界があり、ヒヤリハットやインシデントが発生する度に病院側に放射線治療の品質管理の重要性を訴え続け、2012年に多職種で構成される放射線治療品質管理室が設置された。放射線治療の品質管理を先導的に行う部署と責任の所在を明確化したことにより、放射線治療における品質管理と安全管理を包括的に行うことが可能となった。このような品質管理体制が整ったことにより、2015年に世界中の医療施設の“医療の質の向上と患者安全”を国際基準で評価するJCI(Joint Commission International)認証を大学病院では初めて取得でき、放射線治療領域に関しても良好な評価を受けた。このJCI認証のために放射線治療品質管理室が先導的な役割を担ったこともあり、当センターの放射線治療品質管理体制が確立した。
医学物理士の給与体系
医学物理士は埼玉医科大学の大学教員として採用されているため、大学教員給与表に従う。
今後の医学物理士のキャリアパスに係る展望
現在雇用されている医学物理士（筆者を除く）は、他大学の修士課程を卒業した段階で当センターに就職している。このことは早期に臨床経験を積むことができる一方で、博士課程の学位を取得する時期が遅れることが懸念される。大学教員として採用されているため職位向上には学位は必須である。当センターでは、埼玉医科大学大学院の博士課程（臨床医学系研究科）に進学することにより、臨床経験を積みながら学位を取得することが可能であり、医学物理士はこの方法で学位を取得している。また、大学教員の任務として臨床、研究、教育があり、これはAAPM (The American Association of Physicists in Medicine)が求めている医学物理士そのものであり、このような医学物理士を輩出していきたいと考えている。
他の施設へのアドバイス
当センターでは、JCI受審時に医療の質の向上と患者安全のために放射線治療におけるルールの明文化、標準化を図り、包括的に放射線治療品質管理を行うための“放射線治療における品質と安全管理プログラム”を作成したことで、放射線治療部門のスタッフ全員の放射線治療品質管理に対する意識が向上したことが当センターの品質管理体制が確立した上で大きいと考えている。放射線治療の品質管理は治療装置の精度管理だけでなく、職種別業務管理、人的管理、放射線治療の手順の確立、教育・研修、装置故障時の対応、事故時の対応などを包括的に行う必要があり、さらに、常に品質向上の意識を持つことが重要と考えている。
